個性を削ぐ

東海道新幹線の個室付き車両が廃止されるらしい。この前の食堂車にしてもそうだが、東京発の列車というのは基本的に個性を削ぎ落としていく方向にあると思う。

もはや青色吐息のブルートレインにしても、以前はいろんなタイプの寝台や食堂車、ロビーが設けられていたのに、コスト削減と称してどんどん設備を単一化していき、結局は今のような寝るだけの列車に成り下がってしまった。車両としてのサービスがこのように悪い上に、時間帯で言えばどう考えても飛行機に叶うはずなど無いので、今ではかなり利用率が悪いようだ。

優等列車に限らず、首都圏の鉄道というのはとにかくコスト削減至上主義だ。もちろん滅茶苦茶満員だという理由もあるのだけれど、例えばJR西日本の「新快速」のように進行方向に座るシートを取り入れる方向性もあるのに、廃止してロングシートにしようとする。東京だけではなく、東北地方なんかでもロングシートにしてしまおうとしている。

これはどういうことなんだろう。JR九州なんかは高速バスとの熾烈な競争があるので、常に車両のグレードアップを図ったり、もちろんスピード化も図っている。いろんなタイプの車両を作ったりして乗客の引き込みを図っている。


このあと、JR東日本批判を繰り出そうと思ったんだけれど、ちょっと思い直してみると、東海道新幹線JR東海だった(汗)。


でも、鉄道ってもうスピードばかりを追い求める時代じゃないと思う。早く着くことに越したことはないけれど、例えば東京から大阪に行く芸能人なんかはただのグリーン車よりも金を払ってでも個室に乗る方がいいだろう。そういう人にとっては、20分ぐらい早く着くことよりも、移動中のプライベートな時間が保証されていることの方が大事だろうと思う。飛行機ではさすがに個室を設けるわけにはいかない。

子ども連れの人は、多少スピードを犠牲にしてでも子どもとゆったりと移動できる方がいいだろう。食事なんかのサービスも必要だ。子どもの面倒を見てくれるスタッフがいればなおのこといいだろう。親戚の危篤など、本当に急いでいるときには然るべきスピードの列車に乗ればよいのであって、いつもいつも速く行く必要はないように思う。


つまり、鉄道が提供すべきサービスの基本は移動手段であって、必ずしもそれはスピードだけを意味するものではない、ということだ。のぞみを増発するのは結構なことだけれども、ひかりやこだまは必ずしもスピードを第一に提供する列車ではないのだから、料金を安く設定するとか、バリエーションに富んだ移動空間を提供するとか、もっと工夫の余地があるだろう。

------------------------------
ついでだからもう一言。

日本の社会、特に地方は、あまりに自家用車に頼りすぎていると思う。少なくとも県庁所在地クラスの都市であれば、もっと鉄道などの公共交通機関を整備して、車の量を減らすことができるはずだ。

けれども地方の発想というのは何だか変で、道路と新幹線を整備しようとしたがる。道路の過剰な整備は、もちろん無駄というのもあるけれど、商業の観点から言えば、郊外型店舗を増やす役目、逆に言えば中心街への買い物客を減らす方向に働く。

郊外型店舗を持つのはたいていが大手企業だから、地方自治体にとってあまり税収は伸びないだろう。その一方で都市の核となる商店街は「駐車場が少ない」といった理由から衰退していく。地方商店街の衰退の原因は、根本的には車の氾濫にあると言ってよいと思う。

新幹線建設の目的としては、自分たちの地域に観光客などを誘致したい、そして経済を活性化させたい、などと考えるのだろうけれど、現実にはむしろ地元の買い物客がより大きな都市へ流失してしまうことになっている。九州新幹線東北新幹線の盛岡より先の方などはたぶんてきめんにその効果を発揮するだろう。

たぶん国家レベルでの施策として、自家用車保有に対して今よりずっと高額の税金を掛けるとか、自家用車保有そのものを制限する方向に動かないといけないとは思うんだけれど、地方自治体もその動きと連動して、中心都市への車の乗り入れをむしろ制限するような方向で道路網を再構築する、等のことが必要だろう。車そのものの台数を制限していくような方向性も今後は必要になってくるだろうと思うし。

でも自動車産業保護という側面から、こういう方向にはたぶん進まないんだろうなあ。