林檎との出会い

ここ半年ばかり、椎名林檎の曲ばかりを聴いている。なんでこんなに聴いているのか、自分でもよくわからないのだけど、なかなか飽きのこない曲であることは確かだ。

今年の3月頃、大ブレイクし始めた宇多田ヒカルのCDを買いに、新宿南口のHMVへ行った。その時まで、「椎名林檎」という名前を全く知らなかった。と言えば、嘘になるな。「なんでも、東京の地名を曲名に付けているアルバムだ」という風なことを新聞か何かで読んではいた。だがその時はあくまで面白いことする人だなあ、くらいの認識でしかなかった。

だがそのアルバム、『無罪モラトリアム』のジャケットを見た途端、心が動きだした。「何じゃこりゃ」と。趣味の悪い報道陣達の中にカメラを持った女の子がいる写真。HMVの手書きの解説には、「新宿系自作自演屋」などと書かれている。なんで「新宿系」なんだ。まあ「渋谷系」への皮肉ではあるんだろうが、と思いつつ、手は試聴用のヘッドホンに伸びていた。

1曲目、「正しい街」。


正直、やられた。

韻を踏み、泥臭く、安易な共感などはねつけるような詞。

2曲目の「歌舞伎町の女王」。確かに「新宿系」だ。たった数分の曲の中に歌舞伎町の雑踏のなかに気負って生きる新「女王」の姿が浮かび上がった。

3曲目の「丸の内サディスティック」に至っては、歌詞は意味不明。というか、わざわざ「青咬んで行って頂戴」といった具合に「エロ」(という言葉が適切だろう)言葉遊びを楽しんでいるかのようだ。

もうこの時点で、ヒカルはどうでもよくなってしまった。僕は迷わずこのCDを手に、レジへと向かった。普段日本人の歌手の売場など全く見ない僕が『無罪モラトリアム』に目を留めたのも偶然だし、それを試聴したのに至っては万に一つの偶然だった。だがそこまで偶然が重なること自体、必然だったのかもしれない。

こうして僕は林檎に出会ったのである。

 

追記(20190102)

残念ながら最近はちっとも聞かなくなってしまいました。