音楽の聴き方

音楽を聴くとき、僕は気に入った同じ曲、同じCDを飽きるまで聴き続ける。いったん気に入ってしまえばそれこそ数週間でも数ヶ月でも聴いている。だからたくさんの曲は聴けないのだが、気に入った曲は完全に覚えてしまう。ただ僕の聴く曲の多くはクラシックで1曲が長いため、覚えるのに時間がかかっていただけかも知れない。

僕は長い間クラシックばかり聴いていた。チャイコフスキーショパンといったところから入って、ドビュッシーやサティといったフランス系の曲を聴き、その後オーケストラをやっていた友人の影響でドイツ系を勧められ、マーラーを少しかじった。

ただこの頃から、あまりたくさんの曲を聴けなくなってきた。同じ曲を繰り返し聴く癖がついてきたのだ。

マーラーもほんとに少ししか聴いていない。というか、交響曲第5番くらいじゃないか。しかも「ベニスに死す」でたいそう有名な第4楽章のアダージェットばかり。


チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」が好きだった中学生くらいのころ、FMラジオから録音した何人かの別の指揮者が演奏したテープを持っていたのだが、結局僕が繰り返し聴くようになったのは、ソ連レニングラード・フィルの指揮者であったエフゲーニ・ムラヴィンスキーの演奏であった。彼が亡くなった年に放送された、追悼番組か何かの録音だった。

 

その頃はなぜ彼の演奏ばかり聴こうと思うのか自分でもよくわからなかったのだが、そのうち、彼の演奏が他のに比べて遥かにいいから聴こうとするのだ、ということがわかってきた。

 

ムラヴィンスキーの演奏は、とかく感傷的になりがちなチャイコフスキーを、あくまで精確に、冷厳に、第4楽章まで運んでいく。ある種、人を突き放つような冷たさがあるのだが、それは決してソ連の官僚的で杓子定規の無機質な冷たさではなく、職人が自分の作品を作り上げるときの真摯な態度、作品への厳しさが、一見すると冷たさとして感じられるのである。

 

一回聴いて理解できればそれに越したことはないのかも知れないが、それほどの耳を持たなくても何度も繰り返し聴き込めば、その曲の何がいいのかはわかってくるような気がする。

 

ちなみに今はまっているのは椎名林檎だ。別にナース姿に魅せられたわけではない(笑)。