これから。

この切符を買いに行った時、旅行会社の窓口で切符の手配をしてくれたおねえさん―たぶん20代中頃だったと思うんだけれど―彼女に、「いいわね、東京に出ていくって。これからって感じで。」というようなことを言われた。僕はその時、この言葉の意味するところがあまりよくわからず、どうして?と聞いた。彼女は、「大人になればわかるわよ。」と言った。

その後、僕は彼女の言葉通り東京に出た。しばらくはその言葉を思い出すことなどなかったし、今ではその言葉を発した彼女の顔すら思い出せない。けれども、なぜだかその言葉だけは、未だに僕の記憶の中にとどまり続けている。ある意味では、この言葉が、僕の東京暮らしの原点なのかもしれない。

もう僕は、たぶんその頃の彼女よりもずいぶんと歳をとった。そういう意味では、もう十分に「大人に」なった。そういう「今」から過去の自分を振り返ってみる時、「いいわね」って思えるような生き方を、果たしてこの地でしてきたのだろうか。東京に出てきてからもいろんなことがあって、いろんな思いが交錯する。そんな中で、今を生きている。

今にして思えば、彼女がそういうことを言った意味が、なんとなくわかるような気がする。僕も、これから上京する若者を見ると、眩しくって、きっとあの時の彼女のように、そういう言葉をかけちゃいたくなると思う。決して、自分のこれまでを後悔してるわけじゃないんだけれども、そういう眩しさは、素直にいいな、と思う。そういう眩しさがあるんだな、ということに気づいた時が、「大人に」なった時なのかもしれない。


卒業式の日、ということで。