終電車

終電車

忘年会の後、電車を乗り継いで満員の終電車に乗り込んだ。朝のラッシュのような混み具合だ。その電車が2駅目で停車したまま、いつまで経っても発車しなかった。そのうちアナウンスが流れた。
「気分の悪くなったお客様がいらっしゃいますので・・・」
5分ほど止まっていただろうか、ドアが閉まり、電車は動き出した。

2駅ほど進むと、また電車が動かなくなった。
「再び気分の悪くなったお客様が・・・」
いい加減しびれを切らしたおやじがわめいた。
「そんな酔っぱらいほっといて、さっさと発車しろよ!」

確かに早く帰りたい気持ちはわかる。満員の電車の中なら尚更だ。けれども、終電車なのだ。置いて行かれた人は帰れないのである。自分がもし車内で気分を悪くした時そんなことを言われたらどうか、考えたことがあるのだろうか。

普通そういうことは思っていても口には出さないものだ。思うことと口に出すことは違うことである。そういう言葉を平気で吐ける人間がいる一方で、見ず知らずの人のために駅員を呼ぶ人もいた。別に人情や何かを褒め称えるつもりはないが、自分の言葉が人を傷つけたり不快な思いにさせているとは露にも思わない人間というのは、ある意味で可哀想な存在だ。