理想郷
沖縄のさらに先、石垣島などのある八重山諸島に、竹富島という小さな島がある。島を自転車で一周してもせいぜい20分か30分しかかからないような島だ。
僕は卒業旅行に友人と沖縄に行った。新幹線で神戸に行き、そこから船に乗る。船は夕方出航し、紀州水道から太平洋に出て、日がな一日太平洋を航行する。大隅半島の横をかすめ深夜、奄美大島に着く。そして翌々日午前中、沖縄本島に到着する。僕は本島は2度目だったので、友人のために首里城などの基本コースを押さえ、その日の午後空路石垣島に入った。
石垣島を一日観光したあと、翌日は別行動を取った。友人は与那国島に行くといい、僕は竹富島に行った。
竹富島は石垣港から40分ほど船に乗ると着く。ほとんど起伏がない平坦な島だ。港から島の真ん中までは送迎の車で連れていってくれるのだが、驚いたのはほとんど道路が白砂だったことだ。見たこともないような真っ白な白砂が道路一面に敷かれている。そこを、観光用の水牛車がゆっくりと進んでいくのだ。
集落でレンタサイクルを借りて海に向けて走ると、5分ほどで海岸に着く。やはり白砂。珊瑚のかけらもたくさん落ちている。そして曇っていたにもかかわらず、海の色はあくまでもエメラルドグリーンだった。
集落に戻り、火の見やぐらに登ってみると、伝統的建築物群に指定されている集落が一望できる。独特の石垣で囲まれ、独特のオレンジ色をした瓦で葺かれた屋根を持つ、簡素で力強い建物たちだ。
夕方まで島におり、夕日が沈むころ石垣行きの船に乗った。赤く染まる竹富島を船の上から眺めながら、僕は言いようのないこの島の魅力に心惹かれていた。初めてなのにとても懐かしいような感覚。でもそれは決して「日本の原型が沖縄にあった」といったイデオロギッシュなものではなく、あくまで感覚がそう感じさせるものだった。
島に流れる独特の時間も魅力の一つだった。太陽や、雲や、汐にまかせて過ぎる一日。時計の必要を感じさせない、いやむしろ時計が本当に必要なのかどうかさえ疑ってしまうくらい、自然と共に時が流れていた気がする。
僕にとっての理想郷だったのかも知れない。少なくとも、時に縛られない点だけは。
追記(20190102)
これは1994年、学部4年の3月に卒業旅行に行ったときの思い出。