ベランダに出て寒さを感じた瞬間、ふと角館に行った時のことを思い出した。大学1年の冬、ほとんど観光客のいない角館を一人で訪れた。灰色に曇った、寒い日だった。

平日だったせいだろうか、武家屋敷が一軒だけ開いていて、あとは土産物屋も含めほとんど閉まっていた。武家屋敷の中に入ったが、底冷えがする。

屋敷の外に出ると、雪が舞い始めてきた。駅まで歩いているうちに、どんどん雪が積もってきた。傘に雪が積もって重くなる、という経験は僕には初めてだった。雪って重いんだ、と実感した瞬間だった。

僕にとって雪は、今でも非日常だ。雪合戦をしたり、雪だるまを作って、でも昼過ぎには融けてしまう、そんな子供の頃の記憶しかなかった。高校の頃、雪が降ったのでバスに乗ったら坂道を登れなくって、普段なら10分ちょっとで走るところを1時間半もかかったことがあったが、それもいつもとは違う、楽しい思い出だった。

雪が日常の風景であるような人と出会ったのは、東京に来てからだ。いろいろと話を聞くのだが、雪が日常であるという感覚だけは、やっぱりピンとこない。きっと、角館で感じた雪の重さの感触が手に残っているか、いないかなのだろう。それを感じることができただけでも、角館に行った甲斐があったような気がする。

あれからもう9年になるのか。