夏の景色。

ひと夏にひとつ、記憶に残る夏の景色、というのがある。あれはいつの夏だったろうか、九州は大分県、宇佐宮から宇佐の歴史資料館(現在の県立博物館)まで、数キロの道のりをてくてく歩いて行ったことがあった。

むしむしする湿気の中、青と灰色とが交差する空。下の方に視線を落とすと、空の灰色とはまったく関係がないとでも言いたいほどの、田んぼの青さ。自販機もなんにもなくって、汗をかきかきひたすら歩いていく。

別に訳はないんだけれど、その光景がなんとなく忘れられない。そして、そう思うと、ひと夏のそういう景色って、案外忘れないものなのかもしれない。

今年の夏は、夕暮れの山科本願寺故地の土塁脇かな。それと、名古屋を出発した東海道線区間快速から見えた、三河湾に沈む夕陽。混んだ車内に差してきた茜色の夕陽は、簡単には忘れられないほど綺麗だった。写真を撮れなかったのがほんとうに残念。

あとどれだけ、こういう景色を見ることができるのかな。窓の外を見ながら、ふと、そんなことを思った。