歴史系番組と歴史学研究

ところで、1978年に始まった鈴木健二アナの司会として知られる「歴史への招待」は、ここでの座談会なんかを読むと、歴史をテレビ的な情報として伝えたいという狙いがあったようだ。歴史や歴史学が教養・学術として君臨していた時代の残滓が濃厚に残っていた1970年代後半には、確かにそうした狙いは的確なものであったのだろう。結構な人気番組になったし、僕も歴史に興味を持ち始めてからは、何度か見た記憶がある。

ちなみにこの同じ年、網野善彦『無縁・公界・楽』が刊行された。網野さんのこの著書は、これまでの社会経済構造史を重視する従来の中世史研究者からの批判は多かったが、その後、新しい歴史学として社会史の方法論が広く普及するひとつのきっかけとなり、また日本中世史にも社会的な関心が高まった。

単なる偶然の一致ではあるが、この年に大きな変化の波が訪れたというのはちょっと興味深い。そして、社会史が90年代以降研究的に新たな展開を見せなくなっていったのと、歴史番組が停滞気味になっていったのも、奇妙な符合のように思える。

ここ最近、「歴女」ブームなんて言われているんだが、歴史学の内部では、社会での歴史への関心に対応するような、そんな大きな研究動向の変化や動きがあるようにはちょっと思えない。むしろ、日本史を志望する学生や院生も減り、学問分野として縮小傾向にあるような空気すら感じられる。それなのに、社会の中の歴史的な知的関心をどう汲み取って、それを研究にどう反映していくのかということに、これまで研究者はあまりにも無関心すぎたような気がする。「歴女」そのものは単なるブームなのかもしれないけれど、この点はもう少しきちんと考えられるべきなのではないかと感じる。