鞆の浦埋立架橋問題。

http://www.asahi.com/national/update/0211/OSK200902110018.html
江戸時代の港や町並みが残り、映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台ともされる広島県福山市の「鞆(とも)の浦」で県や市が進める埋め立て・架橋計画の認可を国が渋っている。世界遺産登録を目指す10万人署名を前に、金子一義国土交通相は「国民の同意を」と事実上の見直しを求めているが、地元自治体はそれに応じる気配はない。

国交相もこれはいい仕事をしてるなあ。この問題は、もう数年前から地元では論じられてきており、歴史系の学会でも反対活動が行われてきた。だが「ポニョ」ブームによって、全国的なレベルでの景観破壊の問題として改めてクローズアップされた。

鞆の浦地域は朝鮮通信使も寄宿した風光明媚な港町として知られるが、その景観は半月状の入江によって構成されている側面が大きい。
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推進派側は生活優先を訴えているが、反対派側もトンネルによる代替案を提示しており、必ずしもやみくもに反対というわけではない。福山市による事業計画のサイトも見た。
http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/tomo-machidukuri/kouwan-menyu.html

だが、一見しただけでこれが壊滅的な景観破壊になることが予測できる。上の航空写真でいうと、入江のもっとも奥のところを埋め立て、さらにその海側に橋を架けるというのだ。福山市のサイトに写真が掲載されていたので、比較検討のためにそれを引っ張ってきた。まずこれが埋立架橋前。


これが埋立架橋事業後の想像図。

港町の景観で一番大事なのは海岸線の光景で、鞆の浦はそれが歴史的な景観を残す形で今に至っているのが貴重だというのに、そのもっとも重要なポイントを埋立と架橋で潰しているのが、ちょっと小さいこの航空写真からもうかがえる。こんな埋立をしたら、開発の手が入ってしまった他地域の漁村と何ら変わらなくなり、歴史的な景観としての価値は地に落ちる。他の漁村と何ら変わらなくなった「鞆の浦」が、もはや歴史的景観としての魅力を失い観光資源として活用できなくなるのは目に見えている。

僕は福山市内しか行ったことはなく鞆は未訪なのだが、その時の印象による限りでは、鞆の浦の歴史的な価値を高め維持していくような施策は、少なくとも自治体レベルでは不足しているように思われた。そもそもアピールがない。福山市は「世界遺産になるほどの文化的価値はない」などと称して、あえてそうしたアピールを忌避しているのかもしれないが、そういう状況で「生活優先」なんて言っても説得力に欠ける。他の漁村地域と同じような土建的開発→衰退という道は、鞆の地域住民の長期的な利益にならないばかりか、日本や世界における歴史的な価値の喪失という点から地域住民以外の人々にとっても損失でしかない。鞆の浦にしか存在しない固有の歴史的な景観をどう活かしていくのかという視座からものごとを考えていくことこそが、結局はこの地域の価値を高めていくことにもつながっていくはずである。これを機に、埋立架橋を見直し、地域で知恵を出し合って、歴史的な景観を守り抜いていってほしい。