飛騨の旅(その2:止):飛騨の中世

飛騨を訪れるのは、実は2度目だ。1度目は、高校の修学旅行だった。本来中国に行く予定でお金を積み立てていたのだが、上海で修学旅行中の高知学芸高校の生徒が列車事故に巻き込まれ、40人以上が亡くなった。このためPTAが中国行きに反対して、急遽飛騨高山・京都・奈良という、お子様ランチ的に訪問地てんこ盛りの旅行に変更となってしまったのだ。

ただ急遽変更されたにしては、この旅行はなかなか楽しかった。往路は、今は無き寝台特急さくら(女子はみずほ)で岐阜まで行き、そこからバスで犬山城日本ラインなどを眺めながら飛騨高山まで。高山では民家村や高山陣屋に行き、翌朝には宮川の朝市ものぞいたような気がする。その後バスで乗鞍岳に登り、はじめて高山というものを体験したあと、その日のうちに再び岐阜方面に下り、さらに名神高速で京都まで。京都で一日自由行動があり、翌日は奈良に。奈良はちょうどシルクロード博という博覧会をやっていて、それと東大寺法隆寺を見るっていう相当な強行軍だった。そしてその日の夜には大阪南港から船に乗り、瀬戸内を航路で西に向かい、小倉だったかで下船、太宰府に寄って帰るという日程だった。

高山はその時以来だ。高山駅で同じ結婚披露宴に出席するあと二人と合流し、レンタカーを借りて飛騨の地をまわることになった。

今回は飛騨の中世をめぐるとでもいうような巡見地だった。まず訪れたのは、高山から車で20分から30分、飛騨で唯一国宝のある、飛騨安国寺。足利尊氏が諸国に建立した安国寺の一つである。


これは開山堂。この建物は経蔵とともに戦国期の戦火を逃れたということだ。


ここには国宝の経蔵があり、しかも輪蔵である。輪蔵としては最も古いのだそうだ。幸運なことにちょうど内部のお掃除をしていたところだったので、申し出て中まで見せていだだいた。輪蔵は回せるように作られていて、これを一回転させるとお経を全て読んだことになるとされているそうだ。また輪蔵には大般若経が収蔵されていた。確か何年か前の行く年来る年で、地域で大般若経の転読をやる行事が紹介されていたんだが、その際にもこのお経が使われるのだろうか。あと、輪蔵のなかに江戸時代の人が書いたであろう落書きが残されていて、それがまたおもしろい。そうそう、何とも残念なことに、中を見ることに一生懸命で、経蔵の外観写真を取り忘れていたのは不覚だった。

日本再発見 安国寺風土記

日本再発見 安国寺風土記



次に向かったのは神岡。かつてならイタイイタイ病で知られた神岡鉱山も閉鉱し、現在では、ニュートリノ観測装置であるスーパーカミオカンデで知られる。ちょっと前までは神岡鉄道が走っていたんだが、2006年に廃止になってしまった。この地を訪れたのは、かつてこの地を支配していた国人領主級の領主の館である江馬氏館跡を見るのが目的だ。

江馬氏の出自はよくわかっていないが、伊豆の江馬を出自とする武士だと考えられている。なお北条氏とどのような関係にあったのかは明かではない。室町期には山科家記録や『梅花無尽蔵』などの史料に登場する。

江馬氏館跡は、かつては田んぼでいくつかの大石が飛び出しているだけのところだったそうだが、その辺り一帯の地名が「殿」であり、またかつてここに領主の屋敷があったという伝承があったため、発掘調査が行われた結果、室町期の建物跡や庭園跡が見つかった。大石は庭園に配されていた庭石だったこともわかった。また江馬氏館の建物や庭園の配置が京都の室町殿(≒室町将軍)の邸宅である花の御所に類似しており、こうした類似は当該期の他の館跡(同じ岐阜県の東氏館跡など)でも見られることから、室町殿の居館様式を模して全国にこうした館が作られる(ような武家の体制)ことを「花の御所体制」という研究者もいる。こうした発掘成果をもとに、近年建物の一部や庭園、塀や堀などが復元され史跡公園として整備された。

館跡南側の土塀と堀。奥には土橋と門も見える。


大きな庭石は発掘以前からのものらしい。周囲にあまり人工的な構築物がないので、この景色はけっこう中世の雰囲気を伝えているのかもしれない。



この日は中秋の名月の日だったので、床の間にはお月見のお供え物がしつらえてあった。


その後高山に戻り、桜山八幡宮、また高山の町並などを散策する。

桜山八幡宮。勧請は戦国期らしいが整備されたのは江戸に入ってからの金森氏によるらしい。


市内中心部を流れる宮川。この風景は高山っぽいな。

上三之町。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。


夜は飛騨牛を堪能。あと、富山からあんがい近いせいか、お刺身が美味しかったのには予想をいい意味で裏切られた。

これは飛騨牛のお刺身。


これは飛騨牛の朴葉味噌焼き。


飛騨牛の串焼き。


お刺身。




最後に高山ラーメンでしめ。細麺があっさりしたスープによく絡んで、期待以上に旨かった。