報道とスポンサー。

秋葉原の事件。僕自身は秋葉原にはそんなに馴染みはないが、知ってる方の親戚が事件で亡くなったことを知り、そういう形で事件との接点があったことに少し驚いている。

けれどもこの事件の背景としてすでにいろんな人がいろんなことを言っている容疑者の労働環境については、決して人ごとだとは思えない。この事件においても、明らかに派遣打ち切り通告が事件の引き金を引いた感が強い。

ところが、土曜の夜10時からのTBSブロードキャスターでは、容疑者が派遣打ち切りを通告されたという点は報道されたものの、彼を含めた派遣社員の置かれた環境などの問題については、まったくと言っていいほど触れられなかった。誰がどう見たって派遣打ち切り通告は最大の引き金なんだろうから、報道番組としてそこに注目するのは当たり前だと思うのだが、全くのスルーであった。

で、おかしいなと思いつつ遅い晩ごはんを食べながら見ていたところ、CMに入って流れてきたのはトヨタ車のCM。彼の勤めていた派遣先はトヨタ系列。ははん、と思わずにはいられなかった。

私の見た限りでは、この事件を取り上げた他の番組では、たいていの番組が事件と派遣社員の悲惨な待遇のことを伝えていた。同僚のインタビューなども、その点が核心だった。しかしブロードキャスターでは、まったくと言っていいほど触れられない。ここまで露骨に派遣社員に関する言及が無いのは、やはり不自然だ。スポンサーの意向ないしその意向を忖度したテレビ局側の、自主規制の一環ではないかと疑わざるをえない。

この番組自体はそれなりに良質な番組作りをしていると思って視聴していただけに、こういうところで民放の限界に気づかされてしまったのは残念だ。

バラエティ番組などならともかく、報道番組の報道内容においてスポンサーの立場が尊重されるんだとしたら、これはけっこう恐ろしいことになる。報道された内容が偏っているのはある程度判断がつくし検証可能だ。しかし、報道されなかったことについては、それなりのメディアリテラシーがないと普通には知らないまま過ぎ去ってしまう。

電力会社がスポンサーである報道系番組だと、原子力発電所の問題に切り込めないというのは前から感じてはいたが、派遣社員の問題、「人間までカンバン方式

【秋葉原無差別殺傷】人間までカンバン方式 - 何かごにょごにょ言ってます

の問題というのは、人々の生活に直結しているだけに、本来はスポンサーなど気にせず掘り下げるべきテーマだろう。ここら辺は、民放にもきちんと報道の自由が保障されるべきだと考えるのか、あるいはあきらめてNHKがんばれとなるのか、そこは難しい。

たまたまこの事件はネットでの膨大な書き込みにより、ある程度事件の全貌や背景は掴めているわけなのだが、そうでない事件の場合には、民放による報道の偏りなど簡単に見えてくるものではない。そう考えると報道番組におけるスポンサーの問題は、もう少し考えるべきなのだろうなという気がする。少なくともスポンサーの存在が報道のあり方にまで影を落とすのだということは、常に心しておく必要があると思う。