台風とホームレス。

最近昼夜が逆転しちゃって、明け方に寝る癖が付いてしまっている。そのせいで、今回の台風が通り過ぎるまでだいたい起きていたんだけど、朝からのニュースは見てなかった。

帰宅後ニュースを見ると、どうやら多摩川でホームレスの人たちが大勢河原に取り残され、救助されたようだ。だが、行方不明者もいるとか。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070907icw4.htm

多摩川河川敷でホームレス続々救助、小屋が濁流につかる
台風情報
 2年ぶりに台風が首都圏を直撃した。東日本を縦断するコースを進む台風9号の影響で、関東各地で川が「はんらん危険水位」に達した。多摩川の河川敷では、「人が取り残されている」などの119番通報が相次ぎ、濁流の中、ヘリコプターを使っての懸命な救助作業が行われた。

 一方、交通機関も大幅に乱れ、朝のラッシュを直撃。ターミナル駅は疲れた表情で電車を待つ人々であふれた。

 警視庁や東京消防庁には7日午前6時前から多摩川に流されたとして救助を求める通報が相次いだ。「男性が木にしがみついて流されている」「板の上に乗った男性が流されている」。東京消防庁などでは、ヘリコプターをフル稼働するなどして救助にあたった。

 東京都大田区仲六郷の多摩川河川敷では、30戸ほどのホームレス小屋が濁流につかり、身動きがとれなくなった7人が取り残された。同8時50分、東京消防庁の隊員約30人が川にかかる新六郷橋からロープをつたって河川敷に降り、腰まで水につかりながら、取り残された人たちを次々と橋に引き上げた。近くの河川敷にはほかにも多数のホームレス小屋があり、孤立した11人がヘリコプターなどで救助された。

 橋の下で10年ほど前から暮らしている男性(73)は、午前6時前に起床したところ、トタン屋根とベニヤ板で作った小屋の中まで浸水し、水はひざのあたりまで達していた。流れはさほどではなかったが、岸まで50メートルあり、とても歩いて避難できる状況ではなかったという。

 屋根に上って救出を待つ間も、どんどん水位は上がってきた。「そこにいたら死ぬぞ」。約3時間後、駆け付けた消防隊員に橋の上から声をかけられ、縄ばしごで救助された。男性は「早く水がひかないかと不安で仕方がなかった。命拾いした」と話していた。

 また、川崎市中原区の河川敷にある野球場では、濁流の中でバックネットにしがみついていた男性2人のうち1人が救助されたが、もう1人は流された。2人は河川敷でテント生活をしていたという。(以下略)

(2007年9月7日15時22分 読売新聞)

ネットで降雨や増水状況を逐次見ていた僕のような環境であれば、今回の台風で河川敷に居続けることが危険だということは判断できるが、情報源に乏しい彼らにとっては、せいぜいラジオからの情報と“これまでの経験からのカン”くらいしか判断材料はないだろう。

行政の目的が人々の生命や財産を守ることであるならば、現実に危険に直面している彼らの生命を守ることは当然行政の果たすべき役割だ。したがって今回の救助活動も当然行われるべきだと思う。なかには彼らが不法占拠であることをもって救助の必要性に疑問を呈する意見も見られるが、そういう人権観念のない意見は論外。ただ、ヘリを飛ばして救助するというような“最終手段”の是非については、見解が分かれるのではないか。

当然のことながら、レスキュー隊を出動させるのにはお金がかかる。ヘリを飛ばすのはなおのことだ。その費用より人命の方が重いのは当然なのだが、ではその費用は必然的に支出せざるをえなかったのか。そこに、疑問が残る。中州に取り残される状況になって初めてヘリで救助するというのは、さすがに後手に回りすぎだと思う。

僕自身はホームレスの人に小屋の安易な撤去を強いることには反対だ。美観だとかなんとか理由を付けて強制排除していくくらいなら、「放置」する方がまだマシだと思う。だが、ホームレス小屋を「放置」することとホームレスの人々自身の生命の危機を放置することとは、同じではないはずだ。

わざわざヘリを使って救助するというような“スタンドプレー”に、僕は行政の「放置」主義の本質を感じてしまう。つまり、わざわざ莫大な費用を使って「救助活動」を行うことで、生命を第一としている行政の姿勢をアピールできるとともに、河川敷に住むこと自体の「危険性」をもアピールできる。こうしたアピールによって、河川敷からのホームレス小屋の撤去を受け入れやすくする、そういう指向性を看取できる。

行政が本気でホームレスの人々の人命を守るつもりならば、僕は、ヘリを飛ばす前にきちんと避難を呼びかけるべきだし、実際に避難してもらうべきだと思う。確かにホームレスの人々へ行政が避難を呼びかけることは、彼らにとってはテント小屋の撤去命令だと受けとめられてしまうかもしれない。しかしきちんと説明すれば、緊急事態に際しての人命救助活動だということは納得してもらえると思うし、そうすべきだと思う。

今回の一連のニュースを見ていると、避難をまったく呼びかけなかったわけではないようだが、それでも一般住民への対応に比べると著しく人命軽視の観は否めない。本気で避難してもらうつもりだったのかも疑わしい。

もし、ホームレスの人々へはその程度で十分だというような認識が、マスコミでも社会でも一般化していくとするならば、僕は、相当怖い事態だと思う。