刑務所跡の再開発私案。

前にも書いたとおり、近代化遺産としては、これだけの明治建築群が残っている長崎刑務所跡は、もしそのまま保存されるのであれば、まずまちがいなく重要文化財級だと思う。刑務所という施設は、ある意味では近代国家の支配編成原理を象徴的に体現している施設ではないかと思う。それを見事に体現する施設としての歴史的な価値も大きい。どうしてこの建築が評価されていないのか、理解に苦しむ。

ただ、再開発するということであれば、すべてを保存するわけにもいかないだろう。また、移築するにしても何をどういう形で移築するのかが問題になるだろう。私見としては、尖塔のある庁舎はシンボル的存在として保存して、獄舎部分については煉瓦の外壁・内壁を生かす形で活用されるのがよいのではないかと思う。

そもそもこの地域は大きな道路に直接面しているわけでもないし、住宅地として開発したところで、それほど特徴のある開発ができるようには思えない。土地をまっさらにして再開発すると、逆に刑務所跡地としてのデメリットの方が強調されてしまいかねない。

そこで、ある程度煉瓦建築を保存・活用することによって、刑務所跡地であることをむしろ集客のためのシンボルに転換するのがよいと思う。たとえば横浜の赤レンガ倉庫の再生では、行政と民間とが連携して商業施設として再生させることができた。諫早の刑務所跡の場合、正面の庁舎は博物館なり資料館なり、自治体の文化施設として整備するとともに、この地域の再開発のシンボルとなる建築として位置づける。獄舎は、一部は文化施設の付属施設として保存、展示するが、大部分は煉瓦の外壁や内壁を生かす形でショッピングモールなどとして再利用する。放射状に伸びる獄舎群の立地をうまく生かせば、特徴のある再開発を行うことができると思う。また、ある程度緑地帯を確保することにより、刑務所のイメージを「赤レンガ建築」のイメージに転換することは可能だと思う。とくにここの獄舎は上からの採光によって内部が非常に明るく開放的になるよう設計されている。その設計思想を再開発にうまく組み込むことができれば、赤レンガの新しい街として、歴史性を残しつつ明るいイメージで特徴ある再開発が可能になるのではないか。

あと、どの辺までが一体となって売却された土地なのかよくわからないが、赤レンガ群の周囲は中低層マンションを建設、公園やショッピングモールと一体となった住宅として、ただの再開発よりも高付加価値の住宅群として売り出すことができるように思う。ただショッピングモールと住宅を建設するだけでは、従来の規制などに縛られ大したこともできないし、そもそも特徴がなく、市街地が空洞化しつつある地方小都市にあって成功するとは思えない。しかし歴史性を生かした再開発として、文化施設などを再開発事業の内部に取り込むことにより、行政と民間とが一体となり、歴史的遺産を活用した新たな街作りが期待できるのではないかと思う。

この地域の再開発がどのデベによって行われるのかは知らないが、単なる再開発ではなく、ぜひ行政と連携して、歴史的建築というかけがえのない遺産をうまく活用した街作りを行ってもらいたい。