パルテノン多摩企画展「関戸合戦」

昨日は少し時間を作ることができたので、多摩センターにこの企画展を見に行った。関戸合戦とは、1333年に新田義貞による鎌倉攻撃の合戦の一つで、現在の多摩市関戸で行われた。大河の展示に比べてこちらは相当地味なイメージではあるけれど、なかなかどうして、充実した展示だった。

こちらの展示のプロローグは、この地域の集落で行われる法事の風景から始まる。関戸合戦が行われたという5月16日にちなみ、毎月16日に地元の人々が集まってお坊さんを呼んでお経を唱えている。現在でも地域に残る「記憶」を辿るところから博物館展示としての歴史像を組み立てていくという展示手法は、地域に根ざした歴史像を提示するという意味で非常に工夫された展示手法だと感じた。しかしこの手法は、導入部にとどまるものではない。

史実としての関戸合戦の展示は、古文書や太平記などの軍記物、それからこの地にも多く残る板碑などにより組み立てられている。しかしこの展示が興味深いのは、史実としての関戸合戦の展示にとどまらず、「史実」が地域の記憶として定着していく過程を実にていねいに描いていることであろう。この地が交通の要衝であり多くの合戦が繰り広げられたことによって、関戸合戦そのもののイメージ形成にも影響を及ぼしていること、江戸時代にこの地に住んでいた文人が、地誌を編纂する過程で合戦の故地を比定し、それが歴史像の再編に大きく寄与していたことなどを指摘する。

中世史研究者としての視点で見るならば、史実としての関戸合戦に関する史料はきわめて少ない。正直なところ、史実としての関戸合戦だけでは展示としては成立しないだろう。その一方で、江戸時代以降のこの地域に関する研究は、他の地域に比べても相当に進んでいるのではないかと思う。展示の背景には、こうした研究状況による制約が少なからず存在しているとは思うが、そうした制約をむしろ現代に繋がる歴史像の構築に生かしたという点では、非常におもしろい、そして意欲的な展示だったと思う。単なる「事件」史としてではなく、「記憶」として現代にまで伝えられるようになる過程をていねいに描くというのは、歴史叙述としても、歴史学の新しい動向をも踏まえた手法だと思う。

これで入場は無料というのは非常にお買い得。会期は5月21日(月)まで。

そうそう、会場がずいぶん混んでるなあと思ったら、団体で展示を見学に来ていたようだった。しかもよくよく見ると、この間も研究会でご一緒したさるよく知られた先生が、その団体のまん中で展示を解説してて、ちょいとびっくり。まさか平日の昼間にお会いするとは。