迷ったら……どうする?

たまたまネットの某掲示板(2のつくところではないけれど)を見ていたら、こんな書き込みがあった。この書き込みの内容に、僕は軽いショックを受けた。

後悔しない法則

「迷ったら、やめる」
これしかないですよ。

何でもそう。
買い物でも、転職でも。
迷うということは「これしかない!」と思えないから。

僕には、こういう発想は全くない。というか、なにか選択を迫られている場面において、「これしかない!」と思わなくてはいけないなんて、これまで考えたこともなかったし、これから考えることもないだろう。そして僕は、「迷ったら、やる」派だと思う。

実はこれには理由がある。

     *

大学に入り、サークルにも入った頃、「鉄」分の高いある先輩から、こんな言葉を聞いた。

「迷ったら、買え」

その先輩は、硬券マニアだった。硬券とは、いわゆる「硬い」切符*1。当時僕らは硬券のことを「ブツ」と呼んでいたが、先輩はブツを集めるのが好きで、いろんな駅の、あるいは特殊なブツを蒐集しコレクションするのを趣味にしていた。

僕は幸いにもイリバ(=いりば券、すなわち入場券のこと)を観光記念程度に買い集めることくらいしか感染しなかったけれど(笑)、ただ、買おうかどうか迷った時、それは買っておくべきなのだという言葉だけは、深く心に刻み込まれた。確かに蒐集の世界において、ちょっとのためらいがそのモノとの永遠の別れになってしまうことは少なくない。そんな後悔を味わわないためにも、迷ったら買っておくべきだ、というその先輩の言葉には、実感に裏打ちされた確かな説得力があった。そのリアリティがあったからこそ、僕はその言葉を今まで座右の銘としているのかもしれない。

     *

迷ったら買え、というのは、別に「鉄」に限らずとも、古本でも、あるいは論文でも史料でも、同じことだ。あるチャンスを逃すと、もう出逢うことのできなくなるモノ・コトというのは確かに存在する。ちょっとお金を惜しんだが故に出逢う機会を逸してしまいずっと後悔するくらいなら、確かに「買」った方がいい。

僕は、物を買う時には、基本的には徹底的に調べる性質だ。そりゃ、ときどきは衝動買いをすることもあるけれど、お店である商品と比較対照の商品とをあーでもないこーでもないと30分ばかり比べっこして考えあぐねた末に、その日は買わずに帰るなんてことは、僕の買い物ではよくある。ただそれは買うのを「やめる」のではなく、考えるための情報が不足していて十分に迷えていないので、さらに判断するための情報を仕入れるために、いったん引き上げて仕切り直し、というケースが多い。

こういう状況を踏まえた場合、「迷ったら」という状況は、もう単にその金額を払うだけの価値があるかというお金の問題に過ぎない。そういう時に、「迷ったら、買え」の原則が適用されるのだ。僕の買い物では、買う時には、自分なりにその商品のメリット・デメリットを十分に検討し納得して購入しているので、買ったあとに後悔するということはまず無い。

こういう僕の性質をよくよく考えていくと、僕が何かをやる時には、とにかくいろいろ考えてその上で結論を出しているように思う。迷う時というのは、何かをやる、あるいは買うといったプロセスの最終段階での決断の時であることがほとんどだ。そういう時の迷いというのは、積極的な方に転がした方がうまくいくと、僕自身は思っている。この場面で迷ったからといってやめていては、後悔を生むだけだ。だから僕にとっては、「迷ったら」の次は「買え」であり「やる」だ。

けれども、決断に至るプロセスなんて人それぞれで、僕みたいにとことん比較検討しなくても、感覚でぱっと決めちゃう決め方しかしない人もいるのかもしれない。そういう人にとっては、むしろ「やめる」ことでリスクを少なくしているのかもしれない。

ただ、どうせ選ぶんなら、「迷ったら、やる」の方が、あとになって後悔することは少ないような気がするな。これはもう「なんとなく」としか言いようがないけど。

*1:もともとロール状になっていて自動券売機で発券される時に適宜切断され印字されて切符となる、現在ごく普通にみられる切符は「軟券」。