自民党は本当に「保守」政党なのか。

国立駅舎の解体工事が始まることをこちらで知った。

報道などで知っている方も多いと思うが、国立駅舎は、というか国立という地域そのものが、もともと西武鉄道創業者として知られる堤康次郎によって戦前に開発された学園都市であり、駅舎も堤が作ってそれを鉄道省に寄付したものだ。駅舎の建築的な価値はそれほど高くはないようだが、近代の都市史においてこの学園都市が重要な地位を占めているのは周知のことであり、そうした重要性のなかで国立駅舎の重要性も議論されてきていたのではないかと思う。そして、国立のシンボルとしての重要性という、素朴ではあるがもっとも人々に訴える力のある価値によって、この駅舎を保存しようという運動は一定の支持を得ていたのだと思う。

こうした歴史的価値のある事物を顕彰し保存して後世に伝えていくことこそ、「保守」の神髄かと思っていたのだが、この自民党市議はまったくそのようには考えていないようだ。

 今後とも石井伸之は、市民の皆様の安全と安心を守る立場を取り、莫大な借金を抱えることに繋がり、建築基準法に認められない木造の危険建設物を、不特定多数の方が往来する国立駅前に再築することがないように、技術的な面で安全な建物が建設できるように様々な意見を議会の場で発言してまいります。

建築基準法に認められないっていう言葉をこの人がどのように使っているのかはよくわからないが、文化財指定された建築物が建築基準法の適用外だなんてことはググればすぐわかる話。この人の別の記事を読むと、どうやら文化財指定そのものに否定的なようだが、歴史的価値を鑑みれば文化財指定もまったく問題ないと思う。文化財とした上でそれをどうやって保存していくのかという話ならともかく、文化財指定そのものを疑問視するのは、結局この駅舎の価値を認めていないからなのだろう。もちろん防災面への危惧など、いろんな意見があっていいとは思うけれど、この人はそういうことではなく、駅舎を保存するということ自体に、あまり価値を見出していないようにしか思えない。仮にも保守政党の議員を名乗る人間が、歴史的・文化的価値を守るという「保守」の根本のセンスを欠いているように思えるのはどうなのか。

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実は一般論としても、国や地方公共団体の政権を担ってきた自民党は、文化遺産を保護することにきわめて消極的で、これまでにも数多くの遺跡が破壊されてきたことは、枚挙に暇がない。革新系政党が歴史的な文化財や遺跡保護を訴え、保守政権が開発の名の下に遺跡破壊を繰り返してきたという図式は、よくよく考えてみると相当いびつだ。

自民党は保守だの歴史だの美しい伝統だのって言うけれど、そういうことを具体的にきちんと保護していくための施策にはきわめて消極的だ。自民党が途上国型の開発独裁的手法で戦後長らく政権を維持してきたっていうことはよく言われることだけれど、それと同じくらい長いこと、保守とか伝統とか言ってきた。けれども自民党が本当に関心を持っているのは、ただ権力としての国家を「保守」することにすぎず、イデオロギー的に「保守」路線で行くことさえできれば、現実の歴史的な文化財や遺産なんてどうでもいいと本当は考えているのではないか。その矛盾がもっとも先鋭化した形で出ているのが、自民党の開発重視政策に蹂躙される、地域の文化財や遺産の破壊なのだろうと思う。