文化的生存権と「木っ端」役人と新自由主義。

ニュースとしてはちょっと古いんだけれど、生活保護を自治体が拒否しているというニュース。これも、消えそうなので引用しておきたい。

生活保護の拒否66%は「違法」 日弁連調査

失業や病気で生活できなくなった人を支える生活保護制度について、日本弁護士連合会(日弁連)が電話相談を実施したところ、自治体窓口で保護の申し出を拒否されたうち、66%が自治体の対応に生活保護法違反の可能性があることがわかった。保護申請書を渡さないケースがほとんどで、病気で生命の危険があったのに働くよう求めたり、生活が苦しい親族に援助してもらうよう説得したりしたケースもあった。日弁連では、保護費を抑えようとして申請をさせない「水際作戦」が広がっているとみている。

電話相談は今年6〜8月、全国42都道府県で初めて実施し、計634件の相談が寄せられた。

このうち保護を断られた180件について検証したところ、118件は自治体が違法な対応をしている可能性があった。

生活保護法では、自治体は申請を必ず受理し、保護に該当するかどうかを審査しなければならず、申請自体を拒むことは違法とされる。拒否の理由で最も多かったのは、親族らから援助してもらうよう要求したケースで49件。このほか「『若いから働ける』と拒否」が41件、「持ち家の処分を求めた」16件、「借金を理由に拒否」11件。弁護士が「生命の危険がある」と判断したケースも7件あった。

ほかにも、「病気なのに治療するお金がない」16件、「食事を満足にとれない」9件、「水道やガスを止められた・家賃を滞納中」12件など、切迫したケースがあり、弁護士が介入した。

相談を分析した小久保哲郎弁護士は「最低限の生活を保障するはずの生活保護制度が現場でゆがめられている実態が明らかになった。生活保護を受けさせまいとする水際作戦は、人権侵害につながっている恐れが大きい」としている。日弁連は、制度の適正な運用を国などに求める方針だ。

朝日新聞』2006年09月01日

こういうのって、このニュース以前にも、いくつかこうした事例を聞いたことがあるのだが、本当に「現場」の問題なんだろうか。いや、もちろん厚生労働省など所管の官庁が「生活保護受給をできるだけ拒否せよ」といった指示を明確に出していることなどないだろう。もし出していたら当然憲法違反だし、そうなれば小泉改革なんて吹っ飛ぶくらいの大事になるのは間違いない。そういう意味では、おそらく受給申請を拒否するよう誘導した、福祉行政の理念を理解しない役人がたくさんいた、ということなんだろう。

ほんと、こういう役人をこそ「木っ端役人」と呼びたい。弱者の味方にならない役人なんて、国民に寄生しているだけの無駄飯喰らいでしかないし、自分が権力をどういう風に使っているのかのついての自覚もないまま、ただ「権力を行使する」ことの快感にだけ囚われている馬鹿な連中なのだろう。いや、個別にはいろいろあるかもしれないが、やっていることを考えると、敢えてこういう風に侮蔑せざるをえないな。

ただ、ここまで現場レベルで同じような事態が発生しているということは、現場での担当者の政策理念の無理解ということを越えて、何らかの誘導が働いていたのかもしれない。たとえば受給申請限度のノルマが設定されていたとか、受給について何らかの制約を課すような通達があったとか。そうなると、「木っ端」役人の横暴な振る舞いの背景には、やっぱり何らかの政策的な考え方があるのではないか、ということになってくる。おそらく、それが現政権の社会に対する考え方なんだろうと思う。

それにしても、ここまで格差拡大を容認しておきながら、セーフティネットの構築には消極的であるという姿勢。まったく、薄ら寒いものを感じるな。8月は靖国だのナショナリズムだのってのが話題になってこういった問題がやや霞みがちだったけれど、今後日本という国家がどういった方向に進んでいくのかという議論にとって、本当に重要なのは、こうした格差の問題、「平等」という理念をめぐる問題が、重要になっていくのではないかと思う。小泉・竹中路線というのは、基本的にこうした福祉部門の縮減・富裕層優遇を明確に目指しているのだから、対中国や韓国がどうのという以前に、こういったところで本当は問題なんだよな。

というわけで、やっぱり新自由主義的な政策や考え方のうさんくささを改めて感じさせられたニュースであった。