「日本のいちばん長い日」

ラピュタ阿佐ヶ谷っていう映画館で、戦後60年記念企画として「八月十五日、その日まで。」という特集をやっていて、そのなかで上映された作品。見に行く経緯はこの日の日記を参照2005-07-06 - うさたろう日記 はてな版。

監督は岡本喜八、脚本橋本忍。陸軍大臣阿南惟幾三船敏郎、総理大臣鈴木貫太郎笠智衆、他にも大勢の有名俳優が演じる。

8月14日、ポツダム宣言受諾が御前会議で決定されるが、陸軍の一部将校は徹底抗戦を唱え、近衛師団長を殺害して偽命令によって近衛師団を動員し、皇居を占拠。さらに宮内省のある部屋に保管されていた玉音放送用の録音版を奪取し、放送の阻止を狙う。こんなあらすじ。

まず、見始めてからしばらくの間、太平洋戦争の経緯についての状況説明が延々と入って、テンションが下がり気味になる。真珠湾ミッドウェー海戦なんて、誰でも知ってるでしょ。仮に知らなくったって、映画としては問題ないと思う。そんなのをいちいち説明する必要あったのかなあ。

さすがに14日の描写が始まったところからは、緊迫したシーンが続く。ただ、軍人、大声過ぎて、なんて言ってるのかよくわかんないところがあるんだよなあ。当時も、ああいうのでわかってたんだろうか?聞き間違いとか、絶対あったんじゃないかな。いや、これはどうでもいいことなんだけれど。

笠智衆演じる鈴木貫太郎の飄々としたところはよかった。三船は重々しいなあ。それから、なんと言っても忘れられないのが、横浜警備隊長佐々木大尉を演じる天本英世。掛け声だけはでかくて威勢はいいが、中身がまるでない。たぶん旧軍人のある種の典型として描かれてたんだろうな。彼が鈴木貫太郎の私邸を焼き討ちする。

全体の描き方でいえば、14日深夜に飛び立つ特攻隊や、『出家とその弟子』を小脇に抱えて勤労動員されている学生などへの視点は、全体から見ると僅かな部分ではあるけれど、力が入っていたように思う。それに対する、決起した青年将校の「滑稽」さは、特に最後の場面、誰にも聞いてもらえないアジとビラをまき散らしながら二重橋に向かい、自決する場面などで強調される。「真夏の夜の夢」という台詞が、彼らの行動を象徴する台詞として印象的だった。

あとは、戦争遂行派将校の、「あと二千万の特攻で日本は勝てる」云々という台詞も、当時の軍部首脳の馬鹿さ加減がうかがえてよかった。それから、昭和天皇の住む御文庫を反乱軍から守る徳川侍従の「空襲の時にもこの窓を閉めたことがないのに」という台詞は、天皇制の危機が何によってもたらされていたのかを象徴していたように思う。

事件そのものの問題として、どうもクーデターとしては、そうとうお粗末なものだったのだろう。そもそも政権を奪取したところで、日本には戦闘能力なんてほとんどなかったんだから、状況から考えて、成功したとしてもほんのつかの間のことでしかありえない。それに、賛同者がほとんど出なかったということは、それだけ厭戦気分が蔓延していたにちがいない。

不満としては、政府首脳や軍中枢ばかり描きすぎ、という気はする。構成上しょうがないといえばそうなのだが。例えば、あれは陸軍省内かなんかで、省員が夕食を食べてるシーンがあった。どうも僕には白米に見えたのだが、その辺を特攻隊の食事と対比させる、なんて演出は可能だったんじゃないかな。それだけでも、戦場から遠く離れた叛乱将校がさけぶ「徹底抗戦」の空虚さを示すことができただろうに。